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最高裁判所第二小法廷 昭和42年(オ)1103号 判決 1968年2月16日

上告人(原告・被控訴人) 嘉茂義一

右訴訟代理人弁護士 長谷川柳太郎

被上告人(被告・控訴人) 吉田電線株式会社

右訴訟代理人弁護士 水谷昭

同 平田英夫

同 桧原英太郎

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人長谷川柳太郎の上告理由第一ないし第三点について

所論の点に関し、原審がその判決理由(1) ないし(4) に認定した事実関係は、それぞれこれに対応する挙示の証拠に照らし肯認することができ、右事実関係とさらに挙示する証拠関係によれば、訴外朝井不動産株式会社の代表取締役朝井弘は、本件手形の受取人である右訴外会社において直接被上告会社に対し手形金の請求をなすときは、原判決認定の人的抗弁事由をもって対抗されるおそれがあるところから、これを回避すべく、上告人をして本件手形金の取立をなさしめるため、本件手形を妻の朝井喜美代に白地裏書し、さらに同女の白地裏書を加えて上告人に交付したものであって、右各裏書はいわゆる隠れた取立委任裏書にすぎず、上告人は右取立委任裏書の被裏書人に当るとした原審の認定、判断も正当として首肯できるものである。論旨中訴外会社の裏書が取立委任裏書であっても朝井喜美代のした裏書は隠れた取立委任裏書とはいえないとし、また、右喜美代および上告人はそれぞれ本件裏書が取立委任の趣旨でなされたことを知っていたことの証拠がないとする部分はいずれも原審が適法にした事実認定にそわない事実関係を主張するものにすぎない。そして、原審認定の事実関係のもとにおいては、被上告人は、訴外会社に対して有する前記人的抗弁事由の存在についての上告人の善意、悪意に関係なく、右抗弁事由をもって上告人に対抗できる旨の原審の判断は正当である。したがって、原判決に所論の違法はなく、論旨はすべて採用できない。<以下省略>

(裁判長裁判官 奥野健一 裁判官 草鹿浅之介 裁判官 城戸芳彦 裁判官 色川幸太郎)

上告代理人長谷川柳太郎の上告理由

第一、本件の事実関係並経過の概要<省略>

第二、上告理由

第一点審理不尽の違法があり、その違法が判決に影響を及ぼすこと明らかである。

一、原判決は、「朝井不動産株式会社の代表取締役朝井弘は本件手形の受取人である同会社から直接控訴会社(被上告人)に本件手形金の取立をなすにおいては、上記控訴会社(被上告人)の人的抗弁事由をもって対抗せらるべき虞あることを考慮し被控訴人(上告人)をして本件手形金の取立をなさしめるため、本件手形を同居の妻である朝井喜美代に対し白地裏書した上、更に同女の白地裏書を加えて之を被控訴人(上告人)に裏書交付したものであること及被控訴人(上告人)は本件手形裏書交付を受けるにつき他に特段の原因関係を有していなかったことを認めるに十分である」としている。

而して右認定のための証拠については、必ずしも明確な記載はなく単に原判決理由の(1) 乃至(4) の各事実当事者間に争のない朝井喜美代が朝井弘の同居の妻である事実、本件手形振出の原因並に経過に関する事実、甲第一号証の一の記載及本件口頭弁論の全趣旨を綜合して述べているが、果して之によって以上の事実を認定することが出来るであろうか。甚だ疑なきを得ない。

かかる場合、万一第二審が、以上の如き認定をなさんとするには須らく

(1)  被控訴人(上告人)が本件手形を割り引いたかどうか。

(2)  割り引いたとすればその資金の出所の究明。

(3)  朝井不動産、朝井喜美代につき割引の必要性。

(4)  手形不渡後の上告人(被控訴人)朝井喜美代、朝井弘との交渉の経過。

(5)  本件訴訟代理人委任の経過。等につき適宜釈明権行使、職権証拠調等により充分審理する必要があると考える。ところが事茲に出でず極めて証拠に基かず証拠に吻合せざる事実の認定、否、証拠に背反する事実の認定がなされている。この点については、第一審は、「しかし原告本人(上告人本人)尋問によれば原告は手形割引により本件手形を取得した旨供述し右供述が不実でない限り原告はいわゆる善意の手形取得権者と一応推認せざるを得ない」と判示しており不明確な証拠による冒険的事実認定を排しているのは正に証拠裁判主義の原則を貫いた正当な態度とせねばならぬ。

二、之を要するに原審は釈明権不行使審理不尽を致しており乍ら、不意に証拠に背反したる事実認定をなしたものであって審理不尽は明らかであり、この違法は判決に影響を及ぼすこと明らかである。

第二点法令の解釈の違法があり、その違法は判決に影響を及ぼすこと明らかである。

一、原判決はその理由中に「右の認定事実に依れば本件手形における朝井不動産株式会社の第一裏書及朝井喜美代の第二裏書は朝井不動産株式会社が単に被控訴人(上告人)に本件手形の取立を委任するためになされたもので所謂、隠れたる取立委任裏書に過ぎず被控訴人(上告人)は右裏書譲渡をうけるについて特段の原因関係を有しなかったことが明らかである。

しからば本件手形上の権利は被裏書人である被控訴人(上告人)に移転したものとなすべきではあるが被控訴人(上告人)は本件手形上の権利を行使するにつき自己固有の利益を有しないものと認めるを相当とする。従って本件手形の振出人である控訴会社(被上告人)はその受取人である朝井不動産株式会社に対する上記人的抗弁事由の存在についての被控訴人(上告人)の善意悪意に関係なく上記抗弁事由をもって被控訴人に対抗し得る筋合であるといわなければならない」と判示している。

然し乍ら上記隠れたる取立委任裏書であるという認定自体事実誤認であること後に指摘の通りであるけれども仮に朝井不動産株式会社の裏書が隠れたる取立委任裏書であっても之を以て直ちに朝井喜美代の裏書が隠れたる取立委任裏書というを得ない。

従って仮に第一裏書に朝井不動産株式会社なる隠れたる取立裏書があっても第二裏書が通常の裏書を経ておる場合、被裏書人たる上告人は「手形より生ずる一切の権利」を取得し且行使し得るものであると解さねばならない。

このことは流通証券たる手形の性質上当然の帰結であってこのように流通性の保障がなくては吾人は通常手形取引を安んじて行うわけにはいかない。

況んや本件の場合において仮に朝井不動産株式会社代表者朝井弘において取立委任の目的を以て、裏書をなしたものと仮定してもそれは所詮同人の内心の意思に過ぎず、朝井喜美代や上告人が取立委任裏書なることについてその情を知りたりとの点について何等立証のない本件において、かかる場合にまで拡張して、裏書に取立委任裏書としての効力を帰せしめること自体法令の解釈の誤りというの外はない。

二、また前示判決理由中にあるように「被控訴人(上告人)の善意悪意に関係なく上記抗弁事由を以て被控訴人に対抗し得る」と判示しているが悪意な場合は兎も角善意な場合にまで拡張して人的抗弁による対抗力を認めることは手形法第一七条に所謂、害意ある場合に限るのでかかる害意なき場合にまで拡張して人的抗弁の対抗力を認めることは明らかに同法に違背しており右違背もまた判決に影響を及ぼすことが明らかである。

第三点原判決には、重大なる事実誤認があり、その事実誤認が判決に影響を及ぼすことが明らかである。

原判決は上告理由第一点の審理不尽をおかした結果本件手形の第一裏書及第二裏書を漫然隠れたる取立委任裏書と認定してしまったのである。

若し審理不尽をおかさねば上告理由書第一記載の本件事実関係並経過の概要に記載したと同様の事実を認定した筈である。現に第一審においてはそのような事実認定がなされておるのである。

然るに原審は第一審判事の事実認定の労苦を無視し片々たる証拠調の結果重大なる事実誤認をおかしたのであってその結果は判決に影響を及ぼし且このような、事実認定は手形の証券性の無視乃至善良なる国民に手形取引に危惧の念を抱かしめる結果を招来し到底首肯し得ないものである。

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